株式会社計画情報研究所

COLUMN

レッド・ドット・デザイン・ミュージアム

ルール工業地帯の産業遺産としてユネスコ世界遺産に登録されているツォルフェライン炭鉱業遺産群。その一角のレッド・ドット・デザイン・ミュージアムは、新しい産業創造の拠点、広域交流の拠点となっている。
2011年9月に、高岡のまちづくりメンバーと、クリエイティブ・シティの参考に見学してきました。


ツォルフェラインのシンボル 第12立坑

ツォルフェライン炭鉱業遺産群の概要

ツォルフェライン炭坑は1847年に採掘開始。1986年の閉山まで140年の歴史を持つ。ツォルフェライン炭坑の第12立坑は、バウハウスの影響を受けて「世界で最も美しい炭坑」と呼ばれていた。

このような歴史を受け、ツォルフェライン地区の建築群の保存、再生を目指す動きが進み、ドイツ産業デザインの歴史を踏まえ、デザイン産業を中心とする創造産業の集積を目指すこととなった。
見学した第12立坑エリア(A)は、デザイン産業の拠点となるデザイン・センター(ボイラーハウス跡)、ビジターセンターであるルール・ミュージアム(石炭洗浄工場跡)となっている。


NRWデザインセンター

デザイン・センターの概要

第12立坑エリアの旧ボイラーハウスは、ノーマン・フォスターの設計によりリニューアルされ、ノルトライン・ヴェストファーレン・デザイン・センター(以下デザイン・センター)となっている。
デザイン・センターはエッセン市で戦後設立された産業デザインに関する非営利組織を前身とし、ツォルフェライン開発にともなってこの地に移転している。

デザイン・センターはレッド・ドット・デザイン賞を創設し、優れたプロダクト・デザインに授賞を行うほか、デザイン関連の貿易フェア、会議、ワークショップ、コンサルティングサービスを行っている。さらにレッド・ドット・デザイン・ミュージアムを併設し、受賞作品の展示を行っている。

レッド・ドット・デザイン・アワードとは

レッド・ドット・デザイン・アワード(Red dot desaign award)は、IF、IDEAと共に世界的なデザイン賞の一つである。
1955年に創設され半世紀以上にわたり毎年開催されており、国際的な審査員団が選定する優れたデザイン作品に与えられている。

2011年は世界40カ国から計6,468作品が応募。プロダクトデザイン部門では60作品、コミュニケーションデザイン部門(広告、ポスター等)では127作品が選定されている。


展示空間

レッド・ドット・デザイン・ミュージアム

レッド・ドット・デザイン・ミュージアム(以下、RDDM)は、レッド・ドット・デザイン賞を受賞したプロダクトデザインが展示され、保存される場所である。

受付から2階に上がり展示空間に入ると、炭坑跡地としての荒々しい空間の中に、自動車が上から吊り下げられており、入場者の心を一気に惹きつける。
ミュージアム内部には順路は設定されていない。巨大な工場跡地を探検する気分で、様々な空間に配置された洗練されたプロダクトデザイン群に出会うことができる。マップ片手に目的地を探すのではなく、未開の地を切り開き、偶然の発見に驚くという体験に満ちている。このような楽しさは新築のミュージアムでは難しく、工場跡地という空間利用を上手く活用している。


壁際の展示

展示空間には、全体位置図や、階段、エレベーターの位置を示すサインはほとんど皆無である。通常のミュージアムとは違い、自分で発見し、たどりつく楽しさを演出する工夫と思われる。

2階は、まとまりのある展示空間になっており、デザインそのものを鑑賞し、それを基に新しい発想を得ることができるスペースとなっている。
一方2階の廊下周辺は、工場跡地ならではの空間を活かした展示に様々な箇所で出会うことができ、その大胆さに驚きながら進むことになる。また壁際を利用した展示では、一階で見上げていた家具を、やや見下ろすアングルで鑑賞でき、見る角度によるおもしろさ、様々なアングルからのデザインの工夫などを見学することができる。


工場跡地を活用した展示デザイン

3階に上がろうとして階段を探しても見つからない。さらに上に展示空間がありそうなのだが、外周の廊下を一周しても階段が無いことに気づく。

実はやや見えにくいところにエレベーターが設置されており、3階以上にはエレベーターを使う設計になっている。
展示は、インテリア、家電製品、照明機器、キッチン、水周り、電子機器、映像機器、オフィス用品、スポーツ用品、腕時計等々多岐にわたる。


ベルトコンベアを活用した展示

3階、4階の展示空間は広く無いが、いろいろなアングルで工場跡地全体を見ることができる楽しさがある。そして2階、1階と戻りながら、まだ見ていない空間を探すと、意外にも出会っていなかったデザインを発見することができて、また見入ってしまう。
< 各展示物のデザインを楽しむことはもちろん、ミュージアム全体の空間デザインや、そこで演出されている偶然の発見を楽しみながらあっという間に時間が過ぎてしまう仕掛けとなっている。
よいデザインを創造的に鑑賞するためには、よい空間が必要であり、このミュージアムは工場跡地の特性を活かした空間デザインとプロダクトデザインの組み合わせが秀逸であるといえる。

総括:創造都市としての機能

ツォルフェライン炭鉱業遺産群の再生は、ブラウンフィールドである工場跡地を活用し、デザイン等の創造性を活かした産業転換を図る、創造都市の王道ともいえる手法である。
2010年の来訪者は約170万人であり交流人口が増加、デザインセンターや教育施設を連動させた地区内の文化創造機能も機能している。さらに2010年にはルール地方全体が「欧州文化首都」に選ばれ、音楽祭、国際美術展など2500に及ぶイベントが開催され、アートマネジメントの力が急激に伸びている。

産業遺産を活かしたポストフォーディズムへの転換例として参考にしていきたい取り組みである。