株式会社計画情報研究所

COLUMN

「コンパクトシティ」関連本3冊の紹介

社内の図書委員会では、1月に一度、都市に関する様々なテーマに沿った推薦図書を選び、紹介しています。
せっかくなのでスタッフコラムでもさわりをご紹介。

今回の「コンパクトシティ」をテーマにした3冊には、都市のスプロール化に対するアンチテーゼが見てとれます。

  • 「アメリカ大都市の死と生」(J・ジェコブス 著,1961, 黒川紀章 翻訳,鹿島出版会,1977)
  • 「コンパクトシティの計画とデザイン」(海道清信著,学芸出版社,2007)
  • 「人口減少時代における土地利用計画 都市周辺部の持続可能性を探る」(川上光彦・浦山益郎・飯田直彦・土地利用研究会 編著,学芸出版社,2010)

アメリカ大都市の死と生

アメリカ大都市の死と生

訳本。ちなみに2010年版は訳:山形浩生。

言わずと知れた名著である。

ジャーナリストである著者が、ニューヨークを中心に日々の都市の情景を見て考察することから本書は始まる。
著者のスタンスとして、高密を悪として提案されたル・コルビジェの「輝く都市」やエベネザー・ハワードの「明日の田園都市」などへの批判が含まれている。
その批判点として、高密≠過密であり、大都市≠町を大きくしたもの・郊外を高密にしたものであり、大都市とは文化、社会、経済の多様性の発生源とし、都市には「多様性」が重要であるという点が本書の大きな特徴である。

本書後半では、都市の多様性のための4つの条件を、実際の例を用いながら「混用地域の必要性」「小規模ブロック」「古い建物の必要性」「集中の必要性」を挙げる。50年以上前に書かれた本書であるが、現在の都市を考える際にも非常に新鮮で有用な一冊である。

コンパクトシティの計画とデザイン

コンパクトシティの計画とデザイン-

本書ではコンパクトシティを、「郊外へと無秩序に低密・拡散してきた都市の発展方向を転換して、都市空間の全体構造をまとまりのある(コンパクトな)形態に変え、活気のある中心市街地を維持・形成すること」と定義する。

アメリカ、欧州、日本のスプロール化の現況をふまえた上で、著者が考える施策体系を示している。それは

(1)コンパクトシティの構想・計画を立案する
(2)中心市街地の活性化・再生・都市機能再集約
(3)まちなか居住を促進する
…(中略)…
(13)手法を統合して効果を高める
の13項目。

概念整理とあわせて近年の欧米でのプロジェクトも豊富に紹介している。
ピーターカルソープが手掛けるオースティンや、シュリンキングシティの再生手法としてのマンチェスターのパーフォレーションなどはとても参考になった。

前著『コンパクトシティ』から6年。その間に大きく動いた世界のコンパクトシティへの挑戦がしっかり著された一冊である。

人口減少時代における土地利用計画都市周辺部の持続可能性を探る

人口減少時代における土地利用計画都市周辺部の持続可能性を探る

日本の都市周辺部は、優良農地の消失や都市の縮小による衰退や荒廃など、さまざまな問題を抱えている。コンパクトシティを目指すなかで、賢い縮小(スマートシュリンク)を実現するための都市計画的な対応が求められている。

著者は、大学教授やコンサルタントなど多様な経歴を持つ21名で、それぞれの専門分野から見た都市周辺部における土地利用に関する制度的な動向や、その可能性と限界について記述している。

本書は、行政職員やコンサルタントなどのまちづくりに関わる人間にとって、都市周辺部の目指すべき都市像(アーバンフォーム)を描き、それを実現するための方法を考えるための参考書と言える一冊である。

まとめ

我々がコンサルタントとして仕事をする上で、J・ジェコブスの「都市をもっとよく見る」という観点は業務に忙殺された日常でとかく忘れがちである。そんな行き場のない時にこそ、基本に立ち返らないといけないなぁと反省&やる気にさせる一冊だ。

しかし、狭いエリアでは現場をよく見ることができるので、気づきも多く満足度が大きいが、得られた結果を広いエリアを対象にした制度や計画へ反映させることはやはり難しい。

それでもコンサルタントには、“狭い範囲での経験値や論理値”と“広い範囲での制度や計画策定”の間を埋める論理展開が求められる。

(大西)