「シビックプライド」でまちづくりを考える
ヨーロッパの都市開発において、ハードよりもソフト面、その中でも特に「人」に注目が寄せられている。「人」は都市において大きな資産である、と考えられているからだ。
この概念は、日本のまちづくりにおいても重要である。
そんな理由のもと選定した、社内図書委員会の本年度1冊目の注目図書はこちら。
「シビックプライド-都市のコミュニケーションをデザインする-」
(シビックプライド研究会、株式会社宣伝会議、2008)
本書の概要
本書は3章構成だ。ヨーロッパの8都市と2組織の活動を紹介する「ケーススタディ」、シビックプライドをめぐる「論考」、日本で始めるための「提案」。
まずは、「ケーススタディ」で各都市の取り組みに触れてみよう。フルカラーの写真掲載のため、都市のイメージが視覚的に伝わってくる。興味のある事例だけをつまみ食いのように読んでもいいだろう。
次に、「論考」で少しロジカルな部分を学ぶ。最後の「提案」は、自分の住むまちで始めようという気持ちで読んでほしい。
自分のまちのシビックプライドとは何か、考えてみよう。
シビックプライドとは?
本書ではシビックプライドを次のように定義している。
「市民が都市に対して持つ誇りや愛着をシビックプライド(civic pride)と言うが、日本語の郷土愛とは少々ニュアンスが異なり、自分はこの都市を構成する一員でここをより良い場所にするために関わっているという意識を伴う。つまり、ある種の当事者意識に基づく自負心」(本書p164)
これだけではちょっと難しそうに思うかもしれない。簡単に説明すると、
―あなたのまちは、愛されるまちですか
この問いに胸を張って「Yes」と答えられる「自負」のことと思って良いだろう。
それでは、愛されるまちとはどのようなまちか?愛されるまちをつくるには、どうすれば良いのか?そのヒントは次の2点にある。
コミュニケーションの「デザイン」と「デリバリー」
コミュニケーションをデザインするためのポイントは、次の3点である。
- 市民がまちづくりに関わり、それが公共のデザインに表れている。
- 市民が都市を好きになり、都市は市民を好きにさせるような取り組みを行う。
- 広告、建築、公共空間、フード、イベント、ワークショップなど都市に合わせたデザインを行う。
適切にマネジメントされたデザインは、まず市民にデリバリーされ、市民のシビックプライドを高める。
それは旅行者、来訪者や都市の外部の人へ伝わり、都市のブランド力が高まる。伝える内容と同時に、伝え方が大きなポイントとなる。
人がまちをつくり、まちが人をつくる。これがシビックプライドによるまちづくりと言えるだろう。
自分のまちのシビックプライドについて考えてみる
本書で、英国ゲーツヘッドのエンジェル像の例が紹介されている。その像は高さ20m、幅54m、工費2億円というもので当初は住民の反対が大きかったが、今では8割の支持を得ており、都市のシンボルとして、観光資源として大きな役割を果たしている。これは、シビックプライドを挑戦して勝ち取った事例である。
北陸では、金沢市の21世紀美術館、富山市のライトレールがこれに近い。一方で、文化的に新しいものというよりも、武家屋敷や寺院群など歴史的な部分にシビックプライドを感じる人もいるだろう。それらが互いに影響しあって、より多くの人の心に伝わる、洗練されたひとつのシビックプライドが生まれるのではないか。
さて、あなたのまちのシビックプライドとは何だろうか?
(杉本)