フランスの碩学による集大成的一冊
最近読んだ本の中で大きな影響を受けた一冊は『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(エマニュエル・トッド著,2022年文藝春秋,原著は2017年)です。人口統計学者であり家族人類学を研究するE.トッド氏は25歳の時に『最後の転落』でソ連崩壊の予兆を指摘、その後も人口統計と家族類型を駆使する研究スタイルでアラブの春、英国のブレクジット、トランプ政権の誕生などを言い当てています。そのE.トッド氏が70歳を前に集大成として著したのが本書。人間の意識構造が家族形態という人類学的基底によっていかに形成されるのか、それが今日においてどのような力学となりグローバル化した社会を動かしているのか、また宗教が無力化し家族形態が収斂していく中で、表面上は消滅したかに見える伝統的な家族形態が価値観を再生産し続けるメカニズムは何か。人間社会の根本に潜む原理・原則を知りたいという欲求に応えてくれる名著だと思います。(米田)