おわら風の盆 深夜のまちながし
どういう理由かわからないが、今年は「おわら風の盆」にどうしても行きたくなった。訪れたのは最終日の深夜。行事としての公式日程は終わり、あとは踊り手と地方(じかた)が名残を惜しみつつ、自分達のために謡い、踊る時間だ。灯に導かれ坂道を登っていくと、哀愁を誘う「おわら」の調べが聞こえてくる。

町家が並ぶ石畳の路地に「おわら」はほんとうによくあう。日本文化の深奥な美しさをしみじみと感じる瞬間だ。

「おわら」の踊りは洗練されている。それゆえなのか、所作のとても美しい踊り手に出会うことがある。静から動への滑らかさ、そして静の瞬間の艶めかしさ。三味、胡弓を奏でる地方との呼吸。ついついひきこまれ、時を忘て魅入ってしまう。

先人から受け継ぎ次の世代に受け渡す時間軸、地理的な一体性を持ち美しい街並みを伴う空間軸、そして深い文化でつながる絆(関係軸)、豊かな人間社会を構成する三つの要素が凝縮しているのが「おわら」だと、改めて感じ入った。
(米田)